新建築家技術者集団

建築とまちづくり

2017年2月号(No.460)

特集:まちに生きる設計事務所──住み手・使い手との協働

建築設計とはクライアントからの依頼を待つ受注業態と思われてきた。今日でもその要素は色濃く残っているが、ひとびとが建築やまちづくりに抱く要求は、そうした受け身の姿勢では解決できないことも多い。狭義の設計行為を超えて、住み手使い手の基の要求にまで踏み込み、協働して建築行為にまで仕立てることが求められる。言うは易く行うは難きことだが、まちに生きる設計事務所の実践から共に学びたい。

・まちに生きる設計事務所の実践                    岡田 昭人
・“宅老所よりあい”との関係を振り返る                 大坪 克也+村瀬 孝生
・地域密着型総合ケアセンター「きたおおじ」の取り組み
~小法人単独では不可能を協同の取り組みで可能に          藏田 力+山田 尋志
・納得のいく家づくり 長期優良住宅「多摩・産直の家」ができるまで   高本 明生
・運営者と建て主をつないで 障がい者グループホームを建設       高田 桂子+林 工
・原点を大切に 集団の良さを活かして                 江国 智洋+佐藤 未来+松木 康高+中野 真成


■  新建のひろば

・神奈川支部会員──仮設住宅コンペ最優秀賞受賞
・第11回東京地方自治研究集会の報告
・神奈川支部──「実践報告会」の報告
・福岡支部──新建ゼミ/全シリーズを終えて
・東京支部──第三回 防災勉強会報告
・復興支援会議ほか支援活動の記録(2016年11月21日~12月31日)
■  連載

《英国住宅物語1》ハウジングの原点──19世紀労働者階級の住宅問題と公衆衛生改革  佐藤 健正
《新日本再生紀行5》愛知県豊田市旭地区(上)  福田 啓次
《20世紀の建築空間遺産17》イエール大学 英国美術センター       小林 良雄


 主張 『空き家の行方』

大西 智子

今、神奈川県では特定空家の判断をするためのマニュアル作りを行っています。特定空家とは、簡単にいえば「周辺環境に悪影響をおよぼす危険な建物」のことです。市町村長が、そのような建物の存在を把握した場合、速やかに適切な措置を講ずべきである一方、強い公権力の行使をともなう行為が含まれます。そこで、措置に係る手続については透明性および適正性の確保が求められるべきと、特定空家等の措置に関するガイドラインには記載されており、「透明性および適正性の確保」をより確実にするために、マニュアルを作ることになったようです。


マニュアルは、RC造・S造・木造ごとに、建物各部等の劣化具合や不衛生さ加減を数値やイラストで示し、示された各項目を順番にチェックしていくと、建物の危険度は大中小のいずれかである、という建物判定が下されるようになっており、誰でもが客観的に危険度を判断できるようになっています。現在、マニュアルの体裁はほぼ出来上がり、最後の仕上として、マニュアルを使って実際に特定空家の指定を行ってみよう、という段階となっています。
また、このマニュアルは、特定空家を指定する側だけではなく、建物所有者側にも特定空家に指定されないよう、マニュアルを見ることで事前に対策を講じてほしい、という目的もあります。したがって、マニュアルはインターネット上で一般公開が予定されています。
近年の建築技術者の仕事は、既存ストックの活用が中心となりつつあるのは誰でもが認めるところです。しかし、特定空家の指定が具体的に開始されると、空き家は結局厄介物であるという流れができて、活用に至る前に建物は消えていってしまうケースが今以上に増えていくのではないか、と懸念しています。
空き家に対する取り組みや活動の状況は地域によってさまざまと思います。私の住む大磯町は、空き家の大多数は木造戸建住宅であり、町としては、それらの活用はこれからの課題で、特定空き家を指定することで、行政主体による空き家の利活用につなげていきたい、という意向のようです。しかし、現実は利活用のための予算がある訳ではなく、何となく描いている活用イメージに沿って民間が自主的に動くことを期待しているという状態です。
したがって、特定空家というレッテルを張られても状況改善や活用の目途が立ちそうもない場合は、結局は壊すよりほかに手立てはない、という事態になります。そのような前例ができると、建物所有者としては、行政サイドからアレコレ言われる前に、先回りして壊してしまえ、という事態も起こるでしょう。さらに、マニュアルを一般公開するのは多くの人にマニュアルを利用してほしいという思惑からですが、マニュアルが普及することによって、空き家に片端から危険というレッテルを貼る行為だけが行われてしまう危険性も生まれるます。
空き家を利用してみたいという声は結構周囲から聞こえてきます。空き家利用希望者は、急激な町並みの変化への危惧もあり、町の中で放置されている建物の魅力を引き出し活用したいと思っています。それに対して、空き家所有者は、建物利用によるプラス面が理解できず、他人に使用されるのは嫌だという思いばかりが先行して、利用希望者による空き家の活用を行えないという現状があります。
木造であれば、古ければ古いほど、少々踏ん張って手をいれていけば魅力的な建物に生まれ変わる可能性があると思いますし、今では貴重な建築技術で建てられた建物が、空き家の中にたくさんあるはずです。危険な建物放置の歯止めは大切ですが、危険の排除と利活用の可能性の有無は別だ、という認識も同時に広めていかないと、いつの間にか貴重なものを失ってしまってしまいことになりかねません。特定空家の指定という空き家への行政介入が、空き家利用促進のきっかけになるようにしていかねばと思います。

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