新建築家技術者集団

建築とまちづくり

2015年1月号(No.437)

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特集:新たな時代を拓く建築まちづくり──第29回全国研究集会から

新建の第29回全国研究集会(2014年11月)は、40年あまり前に第1回が行われた京都で開催された。12の分野にわたり70報告が行われ、新建活動の拡がりと深まりを共有した。本号では、縮小・ストック社会への取り組み、伝統構法の継承を中心に、これまで本誌などで取り上げられなかった活動報告を掲載した。また、記念パネルディスカッション「あらためて京都を見つめる」の概要を載せたので、同名の本誌特集(2014年7・8月号)とあわせてお読みいただきたい。

・住宅の現場における“技術とデザインの継承”                    岩城 由里子
・故郷新潟に根を下ろし四〇年 職業訓練を通して花開いた伝統技術          村尾 欣一
・北海道における地域定住と冬期集住の試み   馬場 麻衣
・篠山の町並み保全と空き家活用 歴史的なまちの空き家対策とまちづくり       横山 宜致
・石場建て伝統構法の家、建ててます   信井 接子
・戦後初、下駄履き(店舗付)集合住宅の新たな展開 公営住宅×高齢者・障害者施設   岡村 七海
・《記念パネルディスカッション》あらためて京都を見つめる             谷口 親平+齋藤 信男+藤井 伸生


■  新建のひろば
・全国研究集会in京都──参加者の感想
・被災者本位の復興と原発ゼロをめざして
・槌音プロジェクト チャリティコンサートⅢ2014
・A・レーモンドをめぐる世界の巨匠たち
・ 復興支援会議ほか支援活動の記録(2014年11月1日~11月30日)

■  連載
《建築保存物語21》那覇市民会館(1967)と聖クララ教会(1958)       兼松 紘一郎
《創宇社建築会の時代1》竹村新太郎の「再発見」                   佐藤 美弥
《木の建築~歴史と現在14》コアのあるH氏邸  大沢 匠


 主張 『戦後70年と建築創造を考える』
和洋女子大学教授/新建全国代表幹事 中島明子

今年は戦後70年。その70年は日本国憲法に支えられた70年でした。憲法9条にもとづく平和主義によって、日本は歴史上初めて戦争をしない、若者が戦場に行き人を殺さない国となり、戦禍で命と生活の場を破壊しない・されない70年でした。
私は、人々が人間らしく住むことを考える「居住学」が専門ですが、平和を前提にして「居住学」は成り立つものであり、建築創造も同じだと思っています。 今、私は職場の近くにある旧陸軍の赤レンガ倉庫の保存と活用の運動にかかわっています。大学がある千葉県市川市国府台は、3つの大学などが集積する学術文化エリアですが、それらは終戦後、陸軍用地を払下げられたもので、市川は陸軍によって栄えた軍都でした。この地域の中に、世界遺産に登録された富岡製紙場と同じ、明治期のフランス積煉瓦造による赤レンガ倉庫が残っていたのです。私たちは、赤レンガ倉庫を、歴史の証人として、また「戦争目的に造られた建築に罪はない。平和目的に使うことによって建築は喜ぶ」と考え、国府台地域の平和・学術文化・環境・福祉の象徴的建物として再生したいと願っています。
そのことは、2012年に中国大連市の現代美術館館長、劉広堂氏からお話しをうかがって、より意を強くしました。大連市の近代史の半分はロシアと日本による占領の歴史で、当時の市街の骨格も建物も数多く残り活用されています。私は館長に「負の歴史がこのように目に見える形で残っていることは苦痛ではないか」と問うたところ、劉館長は「こうした歴史があって現在の大連があること、それを今後どう生かすかが重要だ」と。ひとたび創られた建築の存在は、歴史的・地域的に大きな意味をもつということです。
ところで、終戦により、人々は「恐怖と欠乏」から解放され、戦後生まれの私の人生はバラ色に輝くはずでした。ところが戦後70年を迎え、どうもそうではないような時代の雰囲気です。戦争のできる国へと準備し、さまざまな形で戦争につながる道ができつつあることを実感しています。それは、20世紀後半に築いてきた生存権、民主主義と自由、基本的人権を脅かすことと表裏一体です。
こうした状況を変えるため、「欠乏からの解放」が再び大きな課題になっています。1990年代以降、日本で本格的に導入された新自由主義改革は公的保障を縮減し、人々の格差を拡大し、死語となったはずの貧困をよみがえらせました。非正規雇用が雇用者全体の4割近くを占め、子どもの貧困、母子世帯の貧困は、居住の不安定と結びついて、日本の将来を担う人材を疲弊させるという悪循環に陥っています。少子高齢社会の急激な進展は、貧困や不安定な雇用、未来社会への不安によって子どもを産めないからです。
同時に日本の新自由主義改革は、欧米先進国と少し異なった様相で表れています。安倍政権は「成長戦略」の第一の柱に「女性が輝く日本をつくる」施策を掲げました。少子化による労働力不足によって女性を社会に引き出すことは、至上命令です。しかし、一連の女性に対する蔑視・差別発言が公的な場でさえ行われ、安倍首相の「育休で3年間抱っこし放題」と、3歳児神話を持ち出すことで、保育所の整備を怠るうまい口実をつくるといったことに象徴されるように、古い性別役割分業にもとづく女性観を巧みに利用して、「女性を活用」しようとしています。働く男女に不可欠であり、女性が多く働く育児・介護労働の待遇の低さは男女の賃金格差を拡大し、女性の中にも指導的立場の女性とそうでない女性の格差がもちこまれます。
新年の幕開けを厳しい現実だけを述べて終わってしまいました。戦後70年の幕開けを機に、建築創造を平和と民主主義と人権とのかかわりで考え、生きがいある仕事となるよう、明るい希望に満ちた話ができる1年となりますように。

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